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日々時々 一瞬刹那  月日もまた旅人なれば。
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   そもそも難しいことって。
   難しく見えるから難しく考える
   それを全部ひっくるめて言うと
   難しいになるだけで
   単純なことほど あれなにってなってみたり。


最近小話が拍手お礼になってる感じ。
なので今日も今日とて。
ということで、
拍手くださった方、ありがとうございました。





「で、僕のところに来たわけ」

無造作な黒髪を海風に遊ばせながら、ぼそっと彼は言った。
下から青年を見上げ、世良は困った顔で頷く。

「・・・そう」

ふいっと放られる言の葉が旋律とともに降りてくる。


「え・・・と、やること・・・・・・」
「さっきやってもらったから」
「・・・・・・え・・・あれだけ、ですか」
「うん、あれだけ」

銀髪の少年は”あれ”を思い、更に困惑顔を浮かべる。
やったことといえば、船内のゴミ収集だけだ。
ちょうど船が少し速度を速めた辺りでそれも終った。
それからよくわからないままに
見習いの少年等に厨房に連れて行かれ皿洗いをし
それも落ち着いて現在に至る。

時間としては昼下がり。
船客にとっての甲板からはちょうど死角になるあたり。
潮風の吹くその場所でジルはひとり楽器を奏でていた。
まだ見たことの無い楽器。
ジルもたれる壁の斜め上辺りには
なんだか通信管のような褪せた金色の管がある。

見習いの少年は、世良をここへ案内してどこかへ行ってしまった。


「昼寝でもしてくれば」

しばらく経って、ジルが言った。

「他の子、多分疲れて寝てる頃だよ」
「・・・・・・・・・いいんですか、それ」

船の事情は詳しく知らないが、この船結構アバウトだ・・・・。
そんな風に思っていたら、声が降ってきた。

「そういうセクションだから、僕のところは」
「・・・・・?」
「見習いじゃないのは僕だけだったろ?
 船に慣れてもらう期間、新人の子にいてもらうとこだから、ここ」
「それで昼寝・・・」
「うん。まぁ・・・・・・・・・よくわかんないけど」


話は、終わりらしかった。
かといってどうしようかも思いつかず、
とりあえずの座れそうなところを見つけて、世良は座り込んだ。
消えた会話の空白を弦を弾く音が埋める。
暫し聞いて、少年が声を上に投げた。


「ジルさんは?」

ちょいと楽器から青年が目を上げる。


「ジルさんの仕事もゴミ収集なんですか?」

「まぁ、それもあるけど・・・」

青年の言いよどむ歌のように馴染むのが不思議に聞こえる。
世良は無言で続きを待った。

「・・・やってるよ、今も。これが俺の課せられてる仕事」


彼が今唯一やっていること。


「演奏、ですか」

なんだか意外に感じた理由を、世良はすぐに思いついた。

ここは客船であり、
演奏をするのならよっぽどいい、
屋内の舞台があるのに。
彼はここで楽器を奏で、
課せられた仕事、という。


「何でここで弾くんです?」

黒い瞳が下を見下ろす。
何を考えそういったかは、十二分に伝わったようだった。


それでも暫く、船の動力音と波を切る音、遠くには鳥のなく声
そして爪弾く楽器の音色。
それだけが、この甲板を満たしていた。



「僕は舞台で弾いていいような演奏家じゃない」



ふとすれば聞き逃すほどに、音に馴染んだその声が言った。


一拍を置いて、曲が終わる。

黒髪の青年は、金の管の口を閉じ、
変わらぬ無表情で、こう告げた。


「そもそも・・・・・・弾きたくなんかないのさ」

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1987/07/14
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技術部研究生
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基本的には面倒くさがり。
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